北野武は二度死ぬ 『アウトレイジ ビヨンド』

 前作、ビートたけしは殺されていたことになっていたが、やっぱり生きていた。と、いうところからこの映画は始まる。しかし早まってはいけない。この映画のタイトルには、「ビヨンド=彼岸」とある。この映画において、どこからが此岸で、どこまでが彼岸であるのかが重要だ。
 今作におけるビートたけしは、なんというか、影が薄い。どうにも主人公然としない。そしてこの映画のストーリーの中心である、自分を陥れた山王会への復讐にも、いまいち乗り気にならない。また刑務所から出所した彼を迎えに来たのは、話にほとんど絡んでこない、韓国系マフィアである。これらはこの映画が、典型的な映画=日本におけるヤクザの抗争=此岸、という図式で成り立っていることを示している。つまりヤクザ抗争=ヤクザ映画の外側が、「ビヨンド=彼岸」なのである。
 たけしは前作において、型がカッチリと決まってしまっている、典型的なヤクザ映画では「ない」場所、つまり「彼岸」に行きたがった。しかし彼はその続きを、復讐譚という一つのヤクザ映画の「定型」――それもやたらとセリフで説明する――観客にやさしい映画として撮った。「定型」のエンターテイメントと説明的なセリフは、彼が行きたがった彼岸と対置されるべき此岸である。たけしはこの映画の中で、彼岸と此岸の間をふらふらと漂っている。そのための、影の薄さなのだ。
 しかし実は、彼岸と此岸とを行き来する人物は、ビートたけしの他にもう一人いる。だからこそ、あのラストシーン、たけしはヤクザたちとは別の場所からやってきて、ヤクザではない人間、ヤクザを外側からコントロールしようとする人間を殺すことで、映画は完結し、たけしは彼岸へと向かうのだ。きっちりと定型のエンタメヤクザ映画をやりつつも、しかしその上を用意している。観客に媚びたのではなく、映画に二重底を作ることで、北野武の映画はますます魅力的になったのではないか。(かつとんたろう)

アウトレイジ ビヨンド
OUTRAGE BEYOND
監督 北野武
脚本 北野武
製作 森昌行
吉田喜多男
製作総指揮 北野武
出演者 ビートたけし 西田敏行 三浦友和 加瀬亮 中野英雄 松重豊 小日向文世 高橋克典 桐谷健太 新井浩文 塩見三省 中尾彬 神山繁
音楽 鈴木慶一
撮影 柳島克己
編集 北野武 太田義則
製作会社  「アウトレイジ ビヨンド」製作委員会
配給 日本の旗 ワーナー・ブラザース映画オフィス北野
公開 イタリア2012年9月3日 日本 2012年10月6日
上映時間 112分
言語 日本語
前作 アウトレイジ