北野武の葬送『アウトレイジ』

アウトレイジ [DVD]

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 『アウトレイジ』は、すべてのヤクザ映画、そして北野武の葬送である。北野はこの映画をもって、自らとヤクザ映画の関係に区切りを付けたかったのだ。つまり、ヤクザ映画と自ら映画のお約束を借り、その上で、それを「徹底的」に裏切っていくところに、この映画のひとつの面白さがある。
 例えば、この暴力にあふれた映画の中で、最も暴力的かつ酷い殺され方をするのは、椎名桔平演じる水野だ。彼はこの映画においてほとんど唯一の、古いヤクザである。仁義に厚く、きっちり筋を通す。『仁義なき戦い』の主人公、広能(菅原文太)のように、死地へ向かおうとする前には女を抱く。そして彼のシーンは、今までの北野武の映画と同じく「青」で彩られ、彼が殺されるシーンでは、その青さがひときわ目立つ。
 また、北野武は自身の映画において、役者であるビートたけしを幾度と無く殺してきた。あるいは、自ら死に向かわせるようにしてきた、と言う方が正しいか。しかし今作では、大友=ビートたけしは、死ではなく、逮捕されることを選び、自分の命が助かったとわかった瞬間、表情をだらしなくゆるめる。
 自ら死に向かう「青く」「古い」水野は、死地へ赴く前に酷たらしく殺され、ビートたけしは最低のカッコ悪さを見せつけながら、生き残ろうとする。この映画が見せるのはもはや、青く美しい一枚絵のようであった、かつてのキタノ映画ではない。任侠映画、実録ヤクザ映画と続いてきた流れを十分に意識し、しかしそれを裏切ることで別の次元へと押し上げようとする意欲作でありながら、それでもなおエンターテイメントとしてのヤクザ映画である、ということを両立させた、まぎれもない傑作だ。(かつとんたろう)


  • 情報

アウトレイジ OUTRAGE
監督 北野武
脚本 北野武
製作 森昌行
吉田喜多男
製作総指揮 北野武
出演者 ビートたけし 椎名桔平 加瀬亮 三浦友和 國村隼 杉本哲太 塚本高史 中野英雄 石橋蓮司 小日向文世 北村総一朗
音楽 鈴木慶一
撮影 柳島克己
編集 北野武
太田義則
配給 ワーナー・ブラザース映画、オフィス北野
公開 フランス 2010年5月17日 、日本 2010年6月12日