その1

『re:re:re:』

  • まず帰ってきて一番最初にみたのがこの雑誌だった。id:d-sakamataとしてはてなにも健在している、自由研究家の近藤正高氏の個人誌である。A4の48p。単色刷りの三段組。
  • 臨時増刊号ということだが、「新幹線をめぐるディスクール・断章」の通り、ひたすら新幹線の記述と言説をあらゆる文献からピックアップするというとんでもない労作である。1964-2007年までの新幹線の足跡は、単純に交通史や技術史に回収されるものではなく、新幹線の記号的な意味の変遷でもあるということがよくわかる。禁欲的に分析を控え、ひたすらに資料の収拾をしていく姿勢は軽い感動さえ覚えてしまうが、きちんとあとがきで自分の立場を表明しているのでご安心。
  • あとがきについて触れると、「新幹線技術の海外輸出」「新幹線と地域社会をめぐる問題」「リニア中央新幹線実現に向けた動き」のみっつをトピックに分析が加えられている。まだ著者も考えあぐねているところがあるようだが、首肯すべきところの多い好論だ。
  • その昔、ある文学研究者が「アンビシャス・ジャパン」という新幹線のメッセージについて、この野望の暴力的な発露と信仰は、日本の、或いは世界の先進国のスローガンではないだろうか、ということを講演会で言っていたのを思い出した。新幹線は乗客だけではなく、野心と記号を載せて疾走する、とまることなき進歩への信仰そのものなのかもしれない。あるいは、そういう記号が載るにふさわしい「何か」が新幹線という乗り物にはあったのかもしれない。
  • 実にいろいろ考えさせられるよいテーマの一冊だ。日本最高の自由研究家に拍手。