第五回 2011年いろいろ。企画展/映画あたり

たたた: 2011年、本以外に面白かったもの、他にはどんなのあった?
とんかつ: まずは年頭の、横浜美術館での高嶺格の企画展、「とおくてよくみえない」は挙げておきたい。帰ってからもあーだこーだ考えて、かなり楽しめた。「在日の恋人」も、本が出ていたのは知っていたのだけど、見るのは初めてで、自分の縁者となる人間と、そこからつながっていく不条理な「国籍」だったり「民族」だったり「血」だったりするものが、不条理なままに提示されている感じがした。

「とおくてよくみえない」
http://www.yaf.or.jp/yma/jiu/2010/toofartosee/


たたた: 今年の1月21日から3月20日までの展示ですね。地震の直前だ。
とんかつ: 自分の縁者となる人間と、そこからつながっていく不条理な「国籍」だったり「民族」だったり「血」だったりするものが、不条理なままに提示されている感じがした。
たたた: 具体的な展示物としてはどういうものになるのかな?
とんかつ: 写真と映像を使ったインスタレーション、というふうに言うのが一番近いかも。「在日の恋人」ね。
たたた: 僕のほうとしては、今年は演劇ばっかり観てたなぁ(笑)。でも、むしろ深く印象にのこった作品は映画が多かった。いくつか作品あげたいんだけど、とくにこれ! っていうなら『超・悪人』を挙げておきたい。
とんかつ: 『超・悪人』は名前だけは聞いたぞ。
たたた白石晃士監督の『超・悪人』って小さい映画館でたまにやってる「青春H」シリーズの一作です。多くはまぁ、ちょっとエロいだけのストーリー映画が多いんだけど、これだけ圧倒的にぶっ飛んでて( ゜д゜)ポカーンってなってました。

超悪人
http://artport.co.jp/cinema/h2/?/movie/01/

とんかつ: あーそうか、青春Hのやつか。鎮西監督の『Ring my bell』しか見てないや。 周りでけっこう話題になってたのを思い出したよ。
たたた: そうそう! 井上紀州監督も『ピラニア』ってさして面白くない作品を作ってる(失礼・笑)謎なシリーズね。『超・悪人』は、真実の愛をもとめて106人の女性をレイプしたレイプ魔が、107人目の女性をレイプして、そして運命の108人目に挑むっていうストーリーをドキュメンタリー風に取った作品なんだけど、 その主人公がまじ人間のクズというか、ここまでクズな人を描いていいのか……っていうぐらい最低なの。レイプした女の子を殴りながら自分の純愛観を語るという……。女の子と一緒にみたら即日別れを告げられそうなぐらいに人間造形がグロテスクで直裁的でかつヤケクソ気味。気持ち悪くなる映画とかなら『Funny Games』とかが有名だろうけれど、出てくる人間造形がグロテスクでも不気味でもなくただただ最低っていう像の結び方にはいろんな意味でショックを覚えたし、悪い最低な意味での開き直りがあってこれは一度観たら忘れられないですよ。
とんかつ: あーなんだろ。ファスビンダーっぽい露悪趣味、みたいな感じなのかしら。
たたた: そうね、ファスビンダーには影響受けてるかも。今年の映画はイマイチ盛り上がりに欠けた感がするけれど、インディーズ映画がTwitterで非常に話題になったりして、なかなか面白い作品がきちんと取り上げられたなぁって感じもありましたね。比較的直近だと『サウダージ』、『監督失格』なんかも話題になりました。
とんかつ: 映画かー、映画ねぇ。今年おもしろかった映画。盛り上がりにはたしかに欠けてた気がするけど、それは超大作みたいなのがなかったからなのかしら? スピルバーグでいったら『スーパー8』も『タンタンの冒険』も、非常にスピルバーグらしい作品だったけど、盛り上がったかと言われるとそうでもなかった。ほかの大作、というか話題作だと『カーズ2』とか『トランスフォーマー』の新しいやつとかになるのかな。
たたた: 大作ってだけなら、けっこうあったんじゃないかなぁ。邦画でいえば、三谷幸喜の『素敵な金縛り』があったし『相棒』も映画化された。今もやってるけれど『けいおん!』もヒットを飛ばしてる。全体的にいわゆる映画に対する関心が落ち込んでるのかもしれない、っていうと悲観的すぎるかなあ。
とんかつ: 『けいおん!』はファンが盛り上がってるだけじゃないの?
たたた: まぁ、その気はかなりありますけれども、興業収入はでてるし、大ヒットといってよいのではないかしら。
とんかつ興行収入的にはそうだろうけど、映画としての評価とかって、まるでみないよ(笑)。結局、テレビの延長じゃないの? いやテレビの方も見てないけど。
たたた: 少なくとも『けいおん!』ファンはテレビの延長、あるいはその拡大として映画版を求めているとは思う。いま『けいおん!』で「ビューティフルドリーマー」みたいなことをやったら、ネット上で暴動が起きそうな気がするしなぁ(笑)。それに前からそうだけど「テレビの延長」としての映画のウエイトはここ数年かなり大きくなってるから、多くの人は映画の独自性みたいなことに過剰に期待してないんでしょうな。ドラマの映画化が典型的にそうだし、漫画なんかにいたってはむしろ「映画化」っていうのと「おー!」と言われ「実写化」というと「えーっ」と悲鳴があがるという。
とんかつ: それはもはや、映画に「映画らしさ」が求められていないってことだろうし、映画化するとたいていクソになるっていうのが、みんなの了解になってしまっているから、ますます映画を見なくなるという……。むかしはアニメの映画化でも、『少女革命ウテナ』みたいな意欲作はあったわけで。『ハルヒ』もそうだったのかな。まあいいや、この辺の話怖いからやめとこ(笑) で、映画での収穫ね。
たたた: やめるんかい! とんかつ君は面白い映画とかありました?
とんかつ: とにかく「ワイズマン映画化祭」は、収穫といっていいんじゃないでしょうか。ワイズマン大事だよーまじで。

ワイズマン映画祭2011
http://jc3.jp/wiseman2011/

たたたフレデリック・ワイズマンですか。またマニアックな(笑)
とんかつドキュメンタリー映画って、やっぱマニアックって言われちゃうんだよね(笑)。くやしいけど。ただ映画好きとしては、絶対に見なくちゃいけない作家だよ。
たたた: おれ、ワイズマンってよく知らないんだけど、その映画祭ってどういう経緯でやることになったの?
とんかつ: いやとくに今だからこそ、みたいなのはないと思うよw 名作家の特集上映、っていうことでしょう。ワイズマンの映画のすばらしさって、ただ見続けることでしか獲得できないものがある、という点だろうね。何も起こらないというか、そこにあるものに対してひたすらカメラを向け続けて、その積み重ねこそが映画なんだ、と。西崎憲の小説『ゆみに町ガイドブック』もそういう感じはあるんだけど、わかりやすい意味での「物語」を拒否しつつ、積み上がっていくものの中に見る側が物語的な何かを、それぞれに見出すことができるように編集されることが、彼らの作品なんだと思ってるよおれは。
たたた: 日常系ってことかな? っていうとまとめすぎかもしれないけれど、日常の質量を推し量るような作品の価値を再認識させられた年、とゆう感じがありますね。