ハジメテデアウ、小劇場!

Mrs.fictionsの15minuts made Vol.7が開幕しました。池袋グリーンシアターにて、今日から五日間、六組の小劇場系劇団が15分間の饗宴で楽しませてくれます。僕にとっては、間違いなく2500円分(前売り価格)の価値はありました。

 

 Mrs.ficitionは自身もハイクオリティな演劇を行う劇団でありながら、より広く演劇の文化的な価値を信じ、いわば小劇場の「エントリーモデル」として企画公演「15minuts made」を開いています。彼らの選球眼は選択劇団のバランスといいクオリティといい、アフタートークまでの流れといい、ほぼ完璧な質を備えています。彼らは、”theatrical exchange style”を称し、一つの公演の中で観客がさまざまな舞台表現との出会いの可能性を模索しています。

theatrical exchange style”について、彼らは以下のように説明します。

 Mrs.fictions考案の公演形態。Theatre(劇場)とcultural exchange(文化交流)を足した造語。文化的な視点から『観客と様々な表現との出会い』、『表現者同士の出会いと交流』を促進する。また、演劇を介して出来る交流全般のことを指す。  一つの公演に複数の集団が参加、また観客にとっては一度に複数の舞台作品を見ることの出来る場となるイベント『15minutes made』は劇場の文化的な役割に着目した所から出てきたもので、このスタイルを忠実に踏襲する形で企画されました。

 
 彼らの「小劇場に人をよびたい」という理念、そのためのstyleの確立し、行動すること。これらは「ハジメテデアウ文芸誌」という理念を掲げて、文学へのエントリーを考える僕たちにとっても無縁のものではありません。

mrs.fictions
http://www.mrsfictions.com/nextstage.html


 今回のVol.7は、とりわけ素晴らしい公演であったと思います。登場する劇団を、ごく簡単に紹介しますね。
 身体表現を売りに、アクションとコントで魅せる「ゲキバカ」。目線を合わせないという縛りを魅せながら絶妙の台詞と抜群の演技力で叙情的な恋愛劇を展開する「こゆび侍」。二次元的恋愛を、三次元で忠実に織り成す「モエプロ」*1セクシャルマイノリティーたちのエロティックでちょっとだけ政治的な日常を恐ろしいほどのリアリティで描く「国分寺大人倶楽部」。とにかくわらって笑えたコントを展開した「夜ふかしの会」。高い構成力と高すぎる演技力で、想像妊娠について語った「Mrs.fictions」。これは間違いなく見に行って損のない人達です。


 終りのアフタートークも非常に面白かったのですが、そこで僕は幾つかの質問をしました。その内容についてはまた別の機会で書こうと思うのですが、mrs.fiction主宰の今村氏が「小劇場に入ってきてほしいとは思うけれど、入ってこれない人は入ってこれない。これに特効薬はない。でも、友達を連れて入ってきてほしい。そのための場所として、15minuts madeはある」という趣旨の発言をされていました。*2「友達をつれてくる」という本当に初歩的な人と人との行為こそが、その友達の世界を広げる一―そういうことはよくありますよね。

 ただ、僕はそれだけでは結局ある段階で飽和するとも思っています。面白いところがあるから面白いところへ行ってみなよ。というのは簡単だけれども、其れが本当に、文化への導入線になるためには、どこかで媒介物――メディアを通さなければならないのではないか。

 小劇場演劇においてかすかに不満があるとすれば、それを、舞台の外からでも見ることができる「固定化したオブジェクト」がないことです。「動画」というレベルでも「音声ドラマ」というレベルでもいいのですが、いまだ舞台に足を踏み入れることのできない人達に広がっていくための、何かの媒介がほしいとは常々思っていることではあります。実際に舞台にくるまで何もわからない、というのも面白いことではあるけれど、舞台に行くまでに何かのステップを用意できないか。CDを聞いてバンドのライブにいくように*3、小劇場で芝居を見る、ということの楽しみが増えれば、面白いことになるかもしれません。
 ただ、もちろん「固定化したオブジェクト」だけが流布するということは非常に怖いことにもなりかねませんし、それでは小劇場で演劇をする意味が失われてしまう。どうしたものかなーというジレンマを、多くの劇団が抱えるのもわかります。

 でも……。


 あ、小劇場ネタ、明日もひっぱります。

*1:彼らについては別の場所でいろいろと書くかもしれません。

*2:誤認だったらごめんなさい。

*3:こういう話もそのうちどこかで書くかもしれません