ミステリの絵本 VOL5

  • 無限遠点」刊。A5の赤い表紙にエンボス加工。裏表紙はなし。28ページ三段組。ページ数は少ないけれど読み応え抜群である。
  • 文学フリマでも多数の参加があるいわゆる「ミステリー」系のサークル。ほかにもたくさん売っていたけれど、気になったのでこれだけ購入しました。
  • 小説三本の作りと序文。「お七」「レッドキャップガール」「探偵紫の解釈」の三本立て。
  • とにかく、ビタジマテツエイ「探偵紫の解釈」がおもしろかった。ミステリーなのでいろいろと差し障りがあるので紹介のしかたに悩むけれど、まず本の組み方と関連させた非常にわかりやすい一つ目のトリックにニヤリとする。それを利用して物語りとしての展開。複合的に進む幾つかの話が交錯していくシーンでまた「ニヤリ」とする。
  • これだけならばただのミステリーということで楽しく読んで終わりであろう。この作品が本当に優れているなと思わせるのは、こうした視覚的な(レイアウトをつかった)トリックがどうしようもないほど遣りつくされていること、あるいは物語りの内容として、「話」が書き尽くされてしまっていることに対する絶望と、その解釈との関係を文学理論的な自覚のもとで記述しているというところだ。

そこで私、探偵ムラサキが作者に成り代わって、独自の解釈に従い、物語りの統合に望みたい。言うまでもなく、これはあくまで私個人による解釈の一例にすぎず、蛇足である。

「たしかに僕の解釈だと、時間と距離を多少無視したものかもしれないですけど、でもその読みでも問題はないですよね。別に?」
「それが読書の楽しみと言うものだよ」

  • という気取りは、まあこれも遣りつくされてはいるけれど、この自覚は実は作品全体、どころかこの冊子全体の意思表明を代弁しているように思われる。序文には以下の通り。

 物語なんてとっくの昔に語り尽くして、語りつくされて、今はたった一つの自分の物語を語ることだけで精一杯だというのに、これ以上、余計なことを一言だってしゃべりたくない。(中略)
 ただ、新しく言葉を一つ積み上げる瞬間にだけ、手が届きそうになるということを、「私」は知っている。

  • この言葉も言い尽くされた。でも言ってくれなきゃはじまらない。がんばれ、無限遠点。
  • 他の小説は僕にはいまいちでした。レッドキャップガールはもうちょっと何か「びっくり」があれば楽しく読めたかもしれないけれど、なんだかなんだか。