エウラリア 鏡の迷宮

エウラリア 鏡の迷宮

エウラリア 鏡の迷宮

  • 『エウラリア 鏡の迷宮』はイタリアを代表する作家の一人、パオラ・カプリオーロの四篇の短編からなる処女作。
  • 幻想的な物語と「囚われること」をモチーフとする作品たちはカルヴィーノのようなめくるめく幻覚とは違う甘い麻酔のような読後感を与えてくれる。
  • 旅芸人の女性が一人の乞食の少女に演じることを教えたことで、少女が魔術的な鏡の世界から抜け出せなくなっていく表題作他、石切り場で死者たちのために彫像を彫り続ける青年が外の世界の女性に引かれて魔界から、金と欲望で動く地上の魔界に足を踏み入れてしまう、禁忌をめぐる「石の女」、監視するものが監視されるもののに愛する人を奪われる、牢獄と監視の「巨人」。「巨人」と対をなし、監禁されるものが監視しているはずの向こうに自らの過去を、音楽の調べによって脱獄する「ルイーザへの手紙」。これらの眼目は「石の女」だと思われるけれど、どうだろうか。
  • 父であり、彫像堀りの師匠でもある老人へ、光の世界にあこがれる青年が告げる一言。

世界には、あなたの知らないこともあるのです。逃げては誘う、とらえようのないものが

  • 続けてこう述べる。

「師よ、名付けようのない力が存在することもあるのです。肉体にきらめく美しさも、まなざしの一つ一つに宿る光も、その力によるのです。それはありとあらゆる喜びを身にまとい、優しそうに近づいて来ると、何とも言えぬ驚愕を人の心に吹き込みます」

  • このように継げて、洞窟といままで所属していた教団から離れた彼。それは恋ってことなのかもしれないけれど、そのために禁忌を犯す決意の若々しさと、そこにいたる緊張感のたくましさ。そしてなによりも、そのような試みが失敗することで、むしろその試みが彼の、描かれはしないけれども、きっとあるに違いない物語りの外側を祝福しているように思える。

面白い一作品。著者紹介なんて無粋なものは、訳者の解説を読んでからでよろしい。