その4 

破滅派

  • 破滅派オフライン文芸誌」の名前の通り、もともとはインターネット上でさまざまな文章を載せてい団体が、ついに冊子にしたものらしい。A5の134ページ。単色刷りだが、銀で「破滅派」と表紙に刻まれている。「後ろ向きのまま前へ進め」との売り文句のとおり全体的に暗くてうさんくさい。
  • 中身までうさんくさい感じがしてしまうが、読んでみるとかなりレベルが高い。「同人の熱意さえはかりにかけない」と編集後記に書かれているものの、これは相当熱い。
  • 同人からプロが出たというのもうなづけるはなしだ。高橋文樹『アウレリャーノがやってくる』が新潮で賞をとったという。
  • 紙面構成としては、創作短編が多く、ついでエッセイ、それにスペシャル企画と題して「ルサンチマン鼎談」なるものがある。小説のレベルはかなり高く感じられた、読みやすくはないが印象に残る。いいかえるなら、稚拙な作品が載っていないということか。むろん好みにもよるけれど。
  • 秀逸の記事は評論で、新田昌英「アマトラとオタク」。ベルナール・スティグレールの「アマトラ」という概念を援用しながら、ニコニコ動画などの「オタク向けサービス」の享受/消費行動を解析していくという評論で、今年の文学フリマで一つトピックにさえなっている感もある「ニコニコ動画評論」の中では最高峰の達成という気がする。提起する問題はともかく、「オタク」という概念を捉えなおし/考え直すのに「アマトラ」はニコニコ動画時代? の文化に新しい観点を提供するかもしれない。続編を待つ。
  • もう一つ面白かったのは、「平成19年度 破滅派試験問題 Re:現代文」である。問題も内容もふざけているが、本気なのかもしれない。なにより採点を行う試験監? が裸で木刀もって「精神を集中させ」ている最後の図が感慨深い。
  • 問題はともかく、採点者とはほとんど顔が見えないものだ。隠れている権力者とでもいおうかしら。試験に臨むものには尋常ではないプレッシャーがかかるが、この「試験問題」は採点者まで己のプレッシャーをさらけ出している……らしい。もともと問題は答えることより出すほうがたぶん難しい。現代文なんて「曖昧」な答えしかでないものだし、テクストの概念から考えれば、回答なんていくらでも出てしまう。出題側のほうが、その意味では回答に対して負う責任が大きく、難しいものだ。そうした問題文をつくり、その回答に「答える」のだ、というフェアな魂が潔い。
  • 実に冒険的な一冊だ。