ヒーローは必ず期待に答えるが、それを裏切ることはしない。 

Halo 4 (通常版) - Xbox360

Halo 4 (通常版) - Xbox360

全世界1100万本を売上げた『HALO3』\をもって第一期HALOシリーズ「オリジナル・トリロジー」は幕を閉じた。世界中のFPSファンを熱狂させたヒーロー「マスターチーフ」が冷凍睡眠につき、制作スタッフから「続編の構想はない」と告げられてから五年後、新たなる三部作『リクレイマー・トリロジー』シリーズの第一作目として『HALO4』が姿を表した。それまでも『HALO WARS』『HALO REACH』や、頓挫したものなぜか『第九都市』となった映画計画などヘイローをめぐるプロジェクトは延々と続いていたわけであるが、ナンバリングタイトルとしてマスターチーフが復活することはヘイローファンならずともゲーム好きなら興味がひかれることではある。
 『HALO4』では開発をバンジースタジオから343Industresに移行させ、ほぼ完全新作として制作された。小説やコミックなどの世界も忠実に引き継いだ制作は丁寧の一言である。ユーザーメタスコアで90点を叩きだし、発売前からあらゆるメディアで最高評価を獲得した本作は、ありとあらゆる意味で最強のビッグコンテンツ―超大作として生み出されることを宿命付けられていたといっていい。新たなるサーガへと踏み出したマスターチーフはその宿命を淡々と受け入れるヒーローとして再びディスプレイに現れることになったのだ。

 その評判に答える程度に出来はいい。HALOシリーズに踏襲されたやたらと難しいキャンペーンモード(難易度は調整できるが)、すぐれたゲームバランスをもつマルチオンライン。好きなマップが作れるフォージ。完全新作にもかかわらず武装や世界観はほぼ前作を踏襲しているが、プロメシアンの武器系統が登場してゲームバランスそのものは前作よりも優れたものになっており、チート的な強さをもった武器のバランスも前作よりもよいように感じる。
特に、マルチプレイヤーのゲームバランスはかなり上昇したように感じる。乗り物の装甲も弱体化して撃破をとりやすくなったと同時に、ゴーストやレイスに加えて重火力兵装特価のマンティスの登場で後方支援から火力統制まで、各員が互いに言語で連絡をとれずども戦線維持の戦略が共有されやすくなったが、ゲームスピードというよりも、戦場の展開はかなり速いため「硬直」した戦線に退屈することもない。シールド+ライフというHP設定は、たとえば「CoD」シリーズのように、出会い頭の瞬殺戦が中心となるゲームと違って、撃ち合いが苦手な人でも一定の戦術を練ることができるようになっている。
 なによりもバトルライフルが復活したことによって短・長距離戦における緊張感がました。かなりの広範囲に高速で段幕をはるサプレッサーなどの武器もあって、下手なプレイヤーでもマルチプレイヤーなりキャンペーンなりを一応楽しめる程度に調整されている。若干、マップの作りが悪いように感じるが、不定期に配信されるスパルタンオプスも続きが気になる見事なシナリオ編成だ。

 逆説的に聞こえるかもしれないが、だからこそ、HALO4は妙に退屈なゲームになってしまったともいえる。期待通りの面白さをもってしまったがゆえに、期待を裏切るほどの衝撃は『HALO4』のどこにもない。一発逆転の奇手もないわけではない、ゲームを冗漫にする「死んだ」要素はほとんどなく、かわりに、アナーキーでハイテンションにさせるような不可解で暴力的な何かはなにもかも、なくなってしまった。
 武器は淡々と武器であり、敵はたんたんとしてやられる。やられる時は淡々とやらる。マスターチーフはその淡々とした無感情なキャラクターと同じだけ、淡々としたゲームは『HALO4』をゲームとして完成させた。
 この淡々とした面白くなさ(おもしろさ)は、この『HALO4』が「2012年もっとも面白かったゲーム」にも「2012年もっとも面白くなかったゲーム」にも両方にノミネートされていることに象徴的だ。記事中ではキャンペーンのご都合主義とマルチプレイヤーのおもしろさといった観点に注意されているが、むしろこれは「マスターチーフ」というヒーローをめぐるマンネリ化の問題として考えることもできる。一応シナリオ仕立てがあるマルチプレイヤーにおいて、キャラクターアイコンは「一介のスパルタン4」に過ぎないが、HALOシリーズを通じて最強を宿命づけられたマスターチーフは、自分自身がどれだけ矮小な存在であろうとも(一度でもゲームをプレイしたことがある者は誰でもわかると思うが、マスターチーフは実によく死ぬ)、最終的にはご都合主義であろうとなんであろうと「勝利」しなければならないのだ。この約束された勝利に「うんざり」しているプレイヤーたちにとって、HALOは未来の人類のシビアな現実を描いているとしても、それはファンタジーの領域にとどまり続ける。このファンタジーを守り続けること、それが343Industriesに期待されたものだったはずだ。
 新サーガの序章である本作には、従来のHALOシリーズのファンもいるだろう。新しくはじめるものもいるだろう。だが、どちらにせよ売れることは約束されている。そこには「期待された通りのおもしろさ」が求められた分だけ、期待を裏ぎる暴力的な冒険は許されなかったのである。それが『HALO5』『HALO6』において、継承されるのか、捨てられるのかはわからないのだが、当分は『HALO4』で遊んでいれば問題ない。(安倉儀たたた)