錫村手作り工房「ムチムチッ」

錫村手作り工房「ムチムチ!」
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 雨の中の観劇。なにとなく愁雨の新宿はどこか退廃的な気がして、昨日は仲秋の名月だったなんて信じられない。
 
 タイニイアリスに入って思わずオオオと声を張り上げてしまったのは、その中はびっしりと砂で埋め尽くされていたからだ。
 事前情報で12トンの砂を運びこんでいたこととか、えらい苦労してセットを作ったこととかの拝聞は伺っていて、ニヤニヤしながらそこらへんをどうだいちょっくら見定めてやらーとか思っていくと、そんな余裕はすべて吹っ飛ぶ圧倒的な光景だったと思う。スナスナ。もう全部砂である。あとかき氷製造機。

 演劇の内容は、もう壮絶。普通の壮絶さではないぐらい壮絶だった。そして執拗で執念深くて、めちゃくちゃなのである。
 でも、普通のかっこいいめちゃくちゃさではなくて、どちらかというとひどいほうのめちゃくちゃだ。子供が作った最強のポケモンとか、せかいさいこうのくにとか、うちゅうでいちばんしあわせなおれんち、みたいな宝箱という名のゴミ箱に頭からつっこまされたようなニガニガしさとヒヤリとする緊張、それから人生と同じく終りの見えない話の進み方をさんざん味わった。
 俳優もめちゃめちゃである。みていてハラハラする。妙にセクシイーな水着の女優さんにもハラハラする。家電量販店にもハラハラしっぱなしである。
 演出にもハラハラすれば、台詞のネタとか電化製品とかに関するどうでもいいぐらい詳しい知識とかについてもなんだかハラハラ。そのくせ砂まみれの凄さが舞台上ではあんまり生かされていなかったりして、これはもううまいとか下手とか、存在感がー、身体性がー、とかいう評価は一言だって御免被るムードでなんていっていいかまったくわからない。だから、そこが面白くってたまらない。

 観終わったあとに、腕を組んで、うーん、なんといっていいか、と悩みながら、そういえば今年は海にいったことなかったなーって漠然と思いながら、しかしこんなひどいほうのグズグズでムッチムチな俳優が示す道にまっしぐらな芝居は観ておいても損はないかもしれないし、全部損だったと思うかもしれないし、めちゃくちゃな宝物だこれはと思うかもしれないけれど、僕はそれを宝物だととっさに思ってしまったので、残念ながら一般の人にいろいろ勧める才能は僕にはなさそうでありますな。
 
 劇評家のカトリヒデトシ氏も熱演中。タイニイアリスに駆け込むなら、今。絶賛公演中。