コンプレックスドラゴンズはとりあえず見に行け。

ジエン社
http://elegirl.net/jiensha/main/

 ジエン社第四回公演「コンプレックスドラゴンズ」が開幕した。たいそうな名前だが、たぶんあんまり意味はない。「コンプレックス」は芝居の舞台となる倉庫の名前で、ドラゴンズはあれだ。れいの、ほら。中日。

 タイトルからして意味が……というよりもやる気がないジエン社らしいけど、今回の芝居はかなりの傑作だ。日暮里駅からちょっと歩く、けして「便利」なところにあるとはいえない「d−倉庫」で開幕した初回公演は、まずまちがいなく成功したといえるんだろう。
 相変わらず「わかりにくい」作風ではある。……ただ、本当に笑えて、泣けて、胸をつかえる。「感動」という言葉に安易さによる非難を求めなければ、今回のお芝居は本当に基本的に、演劇の面白さが――人が、目の前にいて何かをしていることの高揚?――詰まっている。

 その、一方で、笑うことの、あるいは感動の安易さを痛烈に告発する一作でもあった。

 舞台は倉庫で、なげやりなダンボールが詰まれてテレビとCDと机と椅子と。……雑多な物置にも見えるそこは、東京から川ひとつ隔てた場所で、かつて80年代に売れていたらしい「孔子大先生」の弟子たちの事務所なのだという。そこではみなが、そう、みなやる気なくすごしていた。

 芸人たちは草野球に興じ、事務所には小学生が入りびたり、人間関係というか男女関係がぐっちゃぐちゃでとてつもなく面倒くさいことになってるらしい。しかし、ぱっとみ、舞台の上の彼らはぜんぜんそんなことに頓着していない。

 そうしたぼんやりとした立ち方をして、ジエン社の芝居は、なんか不気味だ。……ドラマの見えないドラマ……? やる気がないというのは、やる気を引き起こしていた、社会や会社や世界の期待がとどかなくった……やる気のアーキテクチャがぶっ壊れてしまった絶望を、絶望する気合もでない状態を示す言葉なのだと思う。そういうやる気のない元気を見せる役者たちが、これがまたうまい。


 とくに北川未来演じるメカルの、挙動不審で家をたたき出された社会性ゼロの少女がすごいかわいくてウザい。
 そもそも、このような役柄が存在するのか、という不気味さを撒き散らしている(しかもその舞台にいる理由が、野球チームのメンバーとしてナンパされた、というもの)。
 何をしてもキョドるうえ、最初はずっとドモっている。いじめられっこで自己主張できなくて「絶対宗教にはまるだろこの子」と周りに心配されながら、居場所を確保すると突然微妙にイラっとする居直るあのウザさがたまらない。

 しかも美人ときているが、髪型がおかしい。
 

 次点では伊神忠聡の演じる笑岡がよかった。かつては金持ちだったが今はアル中の肝硬変という最悪の役で、大柄なのに面倒くさそうに振舞うあの面倒っちさがたまらない。笑岡は前作にもでていたが、今回は配役が変わり、生真面目そうな雰囲気から、ずいぶんと変わった。
 ほかの配役では萱の演じる座敷(なんか妙にかわいいんだが、かわいくない)、藤村(なんかすごくイケメンでしかもかわいいんだが、どっかいらっとする)の演ずる葛西も存在感がある。別の劇団「ろりえ」でも存在感をだした小池くん役の松原の好演も光っていた。ほかの人たちについても話してたらきりがないので切り上げ。
 
 「コンプレックスドラゴンズ」は、とてつもなく強度の高い作品で、あいかわらず、労働や未来についての暗い絶望が透けて見えるけれど、それが観客を遠ざけてしまうならそれは本望じゃあない。裏の主人公である「孔子大先生」のなぞめいた警句や、作品全体の「わけのわからなさ」について、作者本介による「社長挨拶」にはこんな言葉が載っている。

僕が、笑いに限らず、表現で見たいのは、何かをこちらにメッセージを飛ばしたりするとか、気持ちをこちらに飛ばしてくれるとか、共感させたいとか、笑わせてくれるとか、センスとか、思想とか、そういうんじゃない気がする。発信者の、誰からも理解されないであろう、「私」みたいなものを感じたいのかもしれない。そしてその「私」はおそらく、ひとつであり、複数なのかもしれない。キングギドラの首みたいなものなんじゃないかな、とも思う。多種多様な他人にもまれながら、たくさんの理解されない「私」の複数構成物みたいなものを、目の当たりにしたいなとか思ってるんだがけれど、どうなんだろうか

 今回の裏テーマが「笑い」であることはむしろ「笑う」観客の後ろめたさを逆に照射させもする。
 
 今、ここの目の前で起こるものやことに、動物的に反応する(=笑う)だけではなく、それが、誰にも理解されえないかもしれないが、そこに確固としてあるに違いない余剰を求めるための、さまざまなステップがあるのだろう。具体的なメッセージの形をとりようもないような、あるかどうかもよくわからないものについて思考して、ただぼんやりと受け取り発信すること。ジエン社第四回公演は、その余剰のありかを求める冒険でもあったし、もう笑って笑ってしょうがないような肩の力を抜きたくなる温泉でもあった。

 ていうわけで、いろいろと笑えます。つうか、「コント 神の世界からみた断罪されるドラえもん」(タイトルうろ覚え)は反則すぎる!ww

 いい仕事しました! 今からでも、みにいくよろしい! 2000円分の価値は確実にある。

追記
http://stage.corich.jp/stage_detail.php?stage_id=13953
コリッチでも予約できるっぽいです。まだ全日開いてるらしいので、ぜひ遊びにいってあげてください。