ニコニコ動画のボイスドラマ

ボイスドラマについての補説。最後に、ニコニコ動画の二つのドラマを紹介して終りにします。

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ニコニコ動画内「ゲーム」カテゴリを席巻するゲーム実況動画の中で、抜群の実力をもつ「幕末志士」たちが、ニコニコ生放送をやった際の残り時間で行った即興ラジオドラマ。

まぁなにも言わずにみてくれ。こいつをどうおも(ry

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 幕末志士による「君の愛は文鎮の如し」。彼らの天才的ネーミングセンスと物語生成力*1の強度を示す抱腹絶倒ラジオドラマです。
 つまり、ニコニコ動画あると「即興でラジオドラマができる」という話でもあるのだけれど、これが「ニコニコ生放送の残り時間」で作られるというところに注意したい。即興で寸劇をしたこととか、ありませんか? キャンプの夜の時間に、何か短い時間でお芝居やってくださいね。とかいわれたことは。子供たちに聞かせるときに、時折内輪ネタを混ぜたりしませんか? 「お話のレベル」に「創り手のレベル」が混ざりこんでくることありませんか? お芝居の「キャラ」ではなくて普段付き合っている「地」を絡めて笑いをとったことありませんか? この動画にはそういう面白さ――まるで友達が即興でみんなを楽しませるためにベタな物語を、ギャグで彩るような面白さが。
 
 しかし、それをニコ動でやるとなると、そこには複雑なアーキテクチャ……つまり、ニコニコ動画における視聴者たちの習性や、ニコニコ生放送の時間制限、動画に仕立てるときの写真や、あるいはそもそも幕末志士が成り上がる(?)ためのゲーム実況という文化の存在が潜んでいます。
 そのなかで、幕末志士の「即興演劇」がゲーム実況者のニコニコ生放送時間あまりという場所からでてきたことは、とても示唆的なことだとおもうのです。
 動機はただの思いつきだったにせよ、実は即興でボイスドラマをやり、それを多くの人が支持する形態を、僕はこれ以外にほとんどみたことがありません。限りなくフリートークやコントに近いものですが、これは物語を主軸にそれを「みんなで共有する」というまごうことなきドラマの形態をとっているように見えます。
 
+企画型
 もう一つが、こちら「いおりんラジオ」です。脚本もSE、音楽全てがしっかりしていてけっこうこれはレベル高いです。

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 なお、@ジャンプ機能で第四話まで続いていきます。
 スタッフ、キャストはニコニコ大百科によれば、以下のとおり。

  • キャスト
    • りりー、かにぱん。いさじ、朧月、どや、ここなっつ、はるぴー、前菜、谷屋、天むす

ニコニコ大百科「いおりんラジオ」による。
http://dic.nicovideo.jp/a/いおりんラジオ

 ぱっとみて分かる人には分かる? かもしれませんが、「歌ってみたカテゴリ」で有名な歌い手たちを中心に、絵師、技術者などがあつまって結成されています。詳しい成立の経緯などはわからないのですが、かにぱん。氏のイラストから始まったラジオドラマ、とのことです。非常にユニークな試みだと思います。「歌ってみた」自体がさまざまな歌い手のコラボレーションや交流を誘発するカテゴリであることは、彼らのコラボレーションを見れば一目瞭然ですが、いわば「歌」というボイスパフォーマンスからボイスドラマに挑戦していく企画力に唸りをあげます。
 もちろん、脚本をあげて、配役を決め、編集やSE、音楽を用意してどこで発表するかを決める。そうした一連の手続きは通常のボイスドラマと同じです。しかし、それらを行う人的人脈が「歌ってみた」というあるカテゴリ――独自の文化――中心に形成される。この流れを評価したいと思うのです。
  
 また、この作品は珍しく*2、「ニコニ・コモンズ」に所属しています。つまり、引用や流用するのにとてもいい。そんなところも個人的に+です。うまい使い方を誰か思いついたって。
 
 現在、小演劇系の劇団の多くが「プロデュース型」……つまり、劇場(固定した活動場所)を持たずに、携帯電話やSNSで連絡を取り合いながら公演メンバーを決めるという形をとっています。活動場所の維持やなにかに大きなコストはかからなくなりました、大学や演劇が盛んな土地ではともかく、そうした人脈には一層入りにくくなったともいえるようです。宮沢章夫野田秀樹もこうした演劇形態をとっていますが、むしろリアル(現実世界)での接点がなければ、そもそも演劇に参加できない状況が強くなったともいえるでしょう。*3

 いおりんラジオのような劇団が増えるかどうかはわかりませんが、そうした潮流にニコニコ動画という場所、さらにそのカテゴリという文化圏が新しい接点となって演劇を盛り上げる。そういうムーブメントとして、そして「歌ってみた」のあの人がお芝居をする、というファンの喜びと共に、このいおりんラジオをオススメしてみます。
 

 
 以上二つの動画を紹介しました。
 ニコニコ動画で検索する場合は「ボイスドラマ」や「ラジオドラマ」というものがないので、じりじり探しまくるしかないのが悲しいところです。ニコニコラジオがかつて大流行したときに、ラジオドラマらしきことを行っていた人達もいたようですが、現在は活動休止しているサークルも多いようです。
 
 二つの動画の共通点は、ボイスドラマを専門とする人達ではなく、自分たちの活動(カテゴリ)をはみ出したときに手を広げうるジャンルとして「ボイスドラマ」を選択したといえます。「ボイスドラマ」のニコニコ動画での立ち位置を示す、というとネガティブな印象を受けるかもしれませんが、本来的にドラマ(演劇)にはこうした「余技」としての側面があることも事実です。「いおりんラジオ」におけるいさじ氏の声のよさや、「幕末志士」の西郷どんの誘い笑いが象徴するような特徴は、ドラマを専門に行う人達には有る意味で禁じ手ですらあるかもしれませんが、物語や演出といったスタンダードな評価軸だけではない、楽しさを存分に味わえる文化として「ニコニコボイスドラマ」があるように思います。

 *「カテゴリから逸脱する文化」みたいな書き方をしましたが、歌い手さんや踊り手さんが歌ってみたり踊ってみたりする前には、演劇やってたり歌手やってたりダンサーやってたり主婦だったりすることもあるので、「あくまでもカテゴリの人としてみた場合にそのカテゴリの活動範囲を超えているように見える」っていうだけなんです。はい。

 追記。やっぱりこの書き方だと「カテゴリに人が所属してる」みたいに見えてよくないかもしれませんねぇ。カテゴリはあくまでもニコニコ動画の上のタブと比較的流通しているタグっていうだけで、「歌ってみた」の歌い手たちも歌ってみただけを活動範囲にしているわけではないしなぁ。

総括

 三回にわたった補説も以上でおしまいです。なかなか時間がとれない中で書いたので不備が多いのですが、今の所修正はしません。また同人音楽関係の原稿を書くときに少しアップデートした形で書き加えたりまとめたりすることはあると思うのですが。
 同人ボイスドラマ、というまとめ方が正しいのかどうか悩むところがあるのですが、これからは「ボイスドラマ」を用語として使って行く予定です。ラジオドラマ、というと、ニコニコ動画youtubeなどの動画サイトを含まない感じがしますから。
 
 同人ボイスドラマ、はまだマイナーなジャンルだといえるでしょう。しかし、さまざまな方面からの参加が可能であり、また演劇という形式を通すことで「ヲタクっぽい」という印象を受けない二次創作も可能になります。80年代から実は活動はあったようなのですが、一部の幸運な商業作品を除いて、当時の同人CDやカセットはまったく手に入りません。そうしたコレクションを持っている方、ぜひとも情報提供お願いします。

 語るべきこと、紹介するべきサークル、あるいはhttp://remof.net/remo-search/index.htmtitle=りもちんや、のようなニュースサイトの活動も重要なのですが、それもまた、ネタ切れになったら紹介していきます。

 では、そろそろ「本当はこの文章系同人がすごい!(仮)」とか文学フリマのあれこれについて、何より修士論文とラブレターとESを書かねばならないので、今日はこのあたりで。ばいちゃ。

  

*1:ゲーム実況者たちの物語生成力については「ゲーム実況、そして刺身。--ゲーム実況プレイ動画についての覚書き」(『ユリイカ』41−4(564)、青土社、二〇〇九年)参照のこと。…あれ、この論文前もひかなかったっけ。

*2:珍しいといってしまうことにも抵抗がなくはないのですが。あと、珍しいからどうってこともありません。

*3:オーディションのようなものはもちろんありますが