演劇を見に行きたい人のために、小劇場劇団たちが本気をだしたようです。

Mrs.fictionsが主催する演劇企画、「15 MINUTES  MADE VOL5」を観劇してきました。池袋シアターグリーン BOX in BOX THEATERにて絶賛公演中。今日が初日で、15日まで開催しておるようです。

東京を中心に活動する演劇集団が六団体、「15分」の枠のなかで芝居を打つというサドンデスなお芝居。舞台芸術は舞台美術家が勝手につくり、それを全団体で共有するというアンサンブルな形態での公演です。

僕の目的は、もちろん我らが作者本介氏率いる「ジエン社」だったわけだけれど、この企画はちょっと興味深い側面がありました。

15mmのパンフにはこんな風にかいてあります。

15mmは、Mrs.fictionsとして具体的に提案する
更なる小劇場演劇の活性化を目的としたイベントです

(略)

劇団同士で「あそこは面白い」「どこそこつまらない」など言いあってないで、
「小劇場」自体を知ってもらおーよ。その上で、自分の作品を好きだと選んでもらいたい。
そのような気持ちで、15mmは出来ております

Mrs.fictionは「舞台芸術の想像と発展を目的に活動を開始」「2007年6月、小劇場演劇、及びそれに類する表現活動の文化的価値向上を目的として結成。」というマニフェストを掲げています。いろいろと突っ込みどころはありますが、「小劇場」が「劇団同士」のおしゃべりによって価値化されてしまうということを「危機」として認識している。これに僕はあ、えらいなぁ、と思ったのですね。

小劇場へのエントリーを考える。あるいは小劇場のパイを広げたい。という思いを「具体的に」表現するのがこの企画、だとするならば、僕が左隣のラスプーチンの旗印にしている「ハジメテデアウ」というコンセプトと、ジャンルは違えどかなり類似した問題意識を抱いているんじゃなかろうか。そういう問題意識をもった人が、どういう企画をたてて演出をして、「小劇場を知ってもらう」のか。その闘い方が僕は知りたかったわけです。

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さて、やってきた劇団は全部で六つ。以下簡単に雑感を。

 めちゃくちゃ面白かったです。フィクションの松任谷由美の出世物語を、少女の一人語りを中心に構想していました。
 六団体中最高度の完成度。女優さんがうまいのなんの。

  • The end of company ジエン社
    • 私たちの考えた終わる会社の終わり

 前回公演のスピンアウト、という側面もある物語。会社が崩壊したあとの、「終わった感じ」を表現する。
 異色の作品という感じを与えるのは、「動かない」「何もしない」「ぼんやり立ってる」ことを役者に要求するからか。
 しかし松任谷由美物語のあとで、この芝居をやるのはメンタリティ的にきつかっただろう。「やる気が無い」と公言するわりにやる気があるジエン社らしい芝居。

  • MOKK
    • Case_1

 踊る。生身の身体が目の前にあるっていうことはこんなにも人を不安にさせるのかと思う。
 初めての劇場公演らしいけれど、そんなの関係ねえ。

  • 青☆組
    • 恋女房

 これも抜群にうまい芝居でした。保険会社の新入社員が、はじめての得意先周りで起こる事件。
 15分、という枠にきれいに収まるもので、そのわりに細かいところに目が行き届いていて面白く見れました。
 あー、この人、S.E.に書いてくれないかなー。小説書いたら面白いんじゃないか。

  • 東京ネジ
    • 再会

 漱石の「夢十夜」を下敷きにして構想。あまり漱石っぽくなく、詩的な世界観をコミカルに表現する。
 双子の俳優が、ずるい。しかし、15分におさまりきる話ではない気もするかもしれません。

  • Dull−COLORED POP
    • 15分しかないの

 最初みた瞬間はよく飲み込めないのだけれど、途中からがぜん面白くなる。キャリアウーマンの女性に夜中にかかってくる電話、15分後に寝なければならないのに。
 「吹っ切る瞬間の心理を重なる声とずれる肉体で描く」という試みなのだという。なるほど。

  • 終わりの会。

 終わりの会というものもあって、これが事実上のアフタートーク。青☆組の人とDUllの人が、Mrsの人の司会によってあれやこれやとおしゃべり。現代口語演劇というものにこんなにも縛られているのか、ということがちょっと新鮮でした。文学や演劇の話をしていたけれど、演劇の人はもっと文学に接近してもいいのだとおもうし(この場合の文学は、純文学という意味ではなくて、文章表現世界とかライターとかを含むもっと広い意味)、逆に文学もまた演劇がかつて「聞き、読む」ものだったように、接近していくべきではないかと思うのであった。まあ、同人レベルでは、文芸で参加していたり脚本提供したりしている人もいますけれども。

  • 舞台劇術
    • 坂本遼

 むしろこれが主役。舞台芸術家が作りたいものを作らせる、という方針らしく。演劇のためのさまざまなガジェットを用意した、聖域のような舞台を坂本は構想した。まだ絶賛公演中なので見に行くとよいと思いますが、無数の「見立て」や、「空間」がある非常に魅力的な舞台となっています。舞台そのものがアートになっていて、目の前の「そこ」に行ってみたくなりました。

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 ただ、やはり「小劇場を知ってもらう試み」として、どの程度成功を収めているのかよくわからない。僕は大学が早稲田で、演劇活動が盛んだったから知り合いの出演を中心にけっこう見に行ったけれど*1、一人で劇場に行くっていうのはけっこういろいろと勇気がいることだったりするんじゃないでしょうか。
 演劇人口を増やすには、こう面白い企画をバンバン打つ、というのもあるけれど、やはり「一緒に見に行ってくれる」人たちを増やすってことが大事なのかな、って最近思うわけですね。
 なんでもそうですが、最初にそこに導いてくれる人がいると、その人が見せてくれたカルチャー全体がぐっと身近なものに感じられると思うのです。「そういう人たちと出会いずらいのかなー、今の世の中」とかって考えてしまうのですが、どうなんだかわからんので、今日はこのへんで。

 それにしても「15 MINUTES MADE」は面白い。ぜひぜひ見に行くよろし。

リファレンス
  • 15 MINUTES MADE VOLUME5
  • 6つの団体がそれぞれ15分ずつの短編作品を上演するイベント『15 minutes made』2009年最初のご挨拶です。5回めを数える今回もまた、一癖二癖ある参加団体が春まだ浅い3月の池袋シアターグリーンに集います。暗い夜の帳の中でそれぞれの団体が繰り広げる最高の15分、是非お見逃しなく! お得な平日昼割引もございます。(過去の15mmはこちら)

  2009年3月12日(木) *14:00〜 / 19:00〜
         13日(金) *14:00〜 / 19:00〜
         14日(土)  14:00〜 / 19:00〜
         15日(日)  13:00〜 / 18:00〜

  *印の回では平日昼割引(500円割引)を実施します。

※毎終演後、「おわりの会」を行います。

  • おわりの会とは…終演後もお客様になるべく長く劇場という空間を味わっていただくため、劇場を開放する時間です。 アンケートにお答え頂いたり、出演者との面会を行ったりと御自由におくつろぎください。 毎回参加団体等からゲストを招き、トークセッションも行います。

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    • 前売り 2,000円  当日 2,500円(全席自由・日時指定)

  (※12日(木)14:00、13日(金)14:00の回のみ 前売り1,500円 当日2,000円)

*1:自慢できるほどではないし、見逃した公演やみていない劇団も多い身で「けっこう」なんていえないかもしれないけれど