□□□□□□ ―題名禁止の書物―

  • 一橋大学文芸部の撰による、雑誌。おともとはオフセット本があったらしいが、入手したのはコピー本である。ノンブルがないのでページ数は不明。60ページぐらいありそう。表紙はローゼンっぽい女の子、つまり五血っぽい不思議な女の子で、目元に涙のペイントが印象的。じつにいい絵だと思う。
  • 内容は小説が五篇、詩が一篇。編集後記と活動報告もある。
  • 大学の文芸部による著作は、文学フリマのひとつの目玉であるけれども、どうも面白い誌面が少ない。文章に質量があるなら、質量に「やる気」が上乗せされない作品とかしょうがなく書きました、とか、甘い夢を見てみましたとか、なにか口からぼへぼへと出ているような奴が書いたに違いないぜこのやろーってなものが多いのですが。
  • それでもここの作品群は非常に読み応えがあった。ストレートな「物語」を提供された、という安心感がなんともいえない。極端な実験に走って死んでる作品も少なく、個々人の個性も雑誌の安定感もほどよくそなえたいいつくりになっています。
  • なかでも、巻頭小説、門人『めざめの症状』はジュブナイル的というか、廚二病的というか、どすぐらい青春小説という感じながらとてもうまく、よくかけていて驚いた。いや、まさに驚いた。
  • 父親の再婚を契機に、家族仲が少しずつ壊れて行く過程を描いた家族劇で、展開は典型的なのに文章と心理描写がうまくて読ませる読ませる。とくに後妻の和美が仕事に失敗した「父」を支えて行く後半の描写が秀逸である。
  • ちょっと引用しようか。

私と小雪は閉館ぎりぎりまで図書館にいるようになった。それは小雪のためと言うよりも、私が常時家の中に立ちこめるお酒のにおいに耐えられないからだった。和美さんにはすっかりお酒のにおいが染み付いてしまっていた。それでも献身的なまでに父に尽くす姿は以前と変わらなかった。父の変貌と、何も変わらない和美さんのコントラストが滑稽に思えるほどだった。
 (中略)
 ただただ、和美さんの狂信だけが、二人を夫婦たらしめ、繋ぎとめている

  • 大学生らしい(とはいわないか)気負いが感じられる文章だけれども、実にいい。
  • 他の作品もいいものが多いが「語り」を「騙り」と言いかえるあたりに西尾維新の偉大さを感じるばかりである。
  • 詩も若々しいもので僕は嫌いじゃない。
  • 他の大学サークルの作品もひまに応じて紹介していくつもりです。